お酒が飲めない/お酒に弱い体質の人を表す「下戸(げこ)」という言葉。なぜお酒が飲めない人が「下」の「戸」なのでしょう?
この不思議な言葉「下戸」の由来には、実は1000年以上前の日本の税制度が深く関わっているのです。
実は平安時代からある古い言葉
「下戸」という言葉は、平安時代にはすでに使われており、古典文学作品にもその記録が残されています。当時の日本は「律令制」という制度で統治されていました。
律令制とは、中国から伝わった法律や制度を基に、国家が人々の生活を細かく管理していた仕組みのことです。現代でいえば、戸籍制度や税制度の原型のようなものと考えるとわかりやすいでしょう。
この律令制では、税金を徴収するために「戸(こ)」という単位が使われていました。「戸」とは現代でいう「世帯」のような概念で、一つの家族やそれに準ずる集団を指していたのです。

家族の人数などによって決まった4つの階級
律令制の下では、家族の人数や財産の多さによって、すべての「戸」が四つの階級に分類されていました。上から順に以下のようになります:
大戸:青年男子が8 人以上いる
上戸 :青年男子が6〜7人
中戸:青年男子が4~5人
下戸:青年男子が3人以下
現在ではお酒好きを表す「上戸」もお酒が飲めない人を表す「下戸」も、元々はお酒と関係なく階級の名称だったのですね。それがどのようにお酒関連の用語になったのでしょうか。
結婚式でふるまわれるお酒の量の違いが由来
働くことができる人数が多いということは、基本的に大戸や上戸は裕福で、下戸は貧しい家になります。それは婚礼の式でふるまわれるお酒の量にも表れていました。
記録では「上戸八瓶、下戸二瓶」の酒が供されたとされており、下戸の婚礼では少ない量のお酒しか出されなかったようです。このことから、「下戸の家ではあまりお酒が飲めない」ということで、お酒が飲めない人やお酒に弱い人を「下戸」というようになったと言われています。
ちなみに、なぜお酒好きのことを「大戸」ではなく「上戸」というようになったのかは定かではありませんが、「上」と「下」の対比が「酒好き」と「飲めない人」の対比を表すのにちょうどよかったからではないかと考えられています。
現在ではあまり聞かれませんが、大酒飲みの人のことを大戸と呼ぶこともあるようです。
まとめ:「下戸」の由来は律令制の階級
言葉の由来には諸説ありますが、「下戸」という言葉の由来は、「律令制の最下級だった『下戸』の家ではふるまえるお酒の量が少なかったから」という説が有力です。
他にも、昔の中国で酒飲みを意味した「上頓」「戸大」の1文字ずつをとって上戸とし、その逆を下戸としたのだという説や、万里の長城の「上戸」「下戸」と呼ばれる門を守る兵士にそれぞれお酒と饅頭が与えられたからだという説などがあります。