「お酒を飲まない」――そう聞くと、我慢をしているような印象を持つ人もいるかもしれません。しかし今、ポジティブにあえてお酒を飲まないことを選ぶ人たちがいます。その背景にあるのは、「自分の心と身体をもっとよく知りたい」「自分らしくいたい」と願う気持ちです。
そんな新しいライフスタイルを表す言葉が「ソバーキュリアス(Sober Curious)」です。
ソバーキュリアスとは?
「ソバーキュリアス」は、「sober(しらふ、酔っていない)」と「curious(好奇心)」を組み合わせた造語です。ただお酒を断つだけではなく、お酒を飲む習慣に対して「なぜ飲むのか?」「お酒をやめるとどんな自分になるのか?」と問い直す、柔軟な姿勢を表しています。
「飲めない」のではなく、「飲まない」をあえて選ぶ。そこには義務感ではなく、自己探求的な意味合いが込められています。スタイルは人それぞれで、「週末は飲むけれど、平日は飲まない」「人と会うときは飲まないようにしている」など、さまざまな形でアルコールに向き合っています。
この考え方の背景には、「自分の心身の状態を明確に意識していたい」というライフスタイルの変化があります。
「お酒を飲まずに交流できないか」という問い
ソバーキュリアスという言葉は、ニューヨークのジャーナリスト、ルビー・ウォリントンの著書『Sober Curious』(2018)のタイトルから生まれました。
人並み以上の飲酒習慣のあった彼女は「お酒をやめてみたらどうなるのだろう」という疑問から始まり、アルコールが常に付きまとう都会の社交文化の中で「お酒を飲まずに人と親睦を深めるにはどうすればよいか」「お酒を飲まないと気まずくなるのはどうしてなのか」「二日酔いのない人生はどんな感じだろうか」という問いを自らに投げかけました。この本は多くの人に「飲まないという選択もあるのだ」という新しい視点をもたらし、共感を呼びました。
このムーブメントは、ニューヨークやロンドンなどの都市部を中心に広がり、やがてSNSやポッドキャストを通じてミレニアル世代やZ世代にも波及しました。「より自分にとって自然な状態」での生き方のひとつとして受け入れられつつあります。

日本でのソバーキュリアス
日本でも近年飲酒をめぐる意識の変化が見られ、若年層を中心に「無理して飲まない」という選択をする人が増えています。それに伴い、食事の席でもソフトドリンクやノンアルコールドリンクを頼みやすくなり、「お酒は好きだけど今日は飲まない」という柔軟な選択がしやすい空気が広がってきました。
実際に「飲まないこと」「ソバーでいること」を試した人からは、「アルコールを飲まなくても場を楽しめることが分かった」「深く眠れて翌朝身体が軽くなった」「はじめは飲まないと変に思われるかと不安だったが、今では自分の選択に自信を持っている」という声も上がっており、自分の身体や気持ちにポジティブな変化を感じている人が多いようです。
「飲まない」が自然に受け入れられる社会へ
とはいえ、まだ「飲まない」という選択に対する無言のプレッシャーも根強く残っています。だけど、世の中が少しずつ変わってきているのも事実です。
「飲む」「飲まない」どちらにも優劣をつけず、自然な選択として認め合える社会。その方が、皆にとって心地よく生きやすいのではないでしょうか。
「自分にとって、お酒ってどんな存在だろう?」
そんな問いを自分に投げかけてみることからソバーキュリアスは始まります。