紅茶が好きだ。
夏の暑い日、酒飲みならキンキンに冷えたビールをぐいっとあおるところ、下戸の私はキンキンに冷えたアイスティーをぐいっといく。
ジョッキではなく、中ジョッキと同じくらいの容量の保冷タンブラーで。
そんなわけで、今年の夏もアイスティーをばかすか飲んでいた。1日中傍らにタンブラーを置き、なくなれば補充。
中ジョッキ並みのタンブラーになみなみと注ぎ、それを何杯も飲むわけだから、1日に1〜2リットルは飲んでいたと思う。
そんなある日、人間ドックに引っかかった。ヘモグロビンの数値が異常に低い、いわゆる「貧血」だ。
基準値がの下限が11.2g/dlのところ、9.2g/dlしかない。以前の検査で下限ギリギリの数値だった際「身体つらくないですか?よく平気ですね」と医者から言われたことがあるが、それよりさらに低い数値。
そういえば階段を登ればやたらと息切れがするし、少し動いただけでも疲れやすい。加齢のせいだとばかり思っていたが、貧血のせいだったのかもしれない。
原因に心当たりがなかったのでネットでいろいろ調べてみたところ、紅茶に含まれるタンニンという成分が鉄分と結びつきやすく、吸収を阻害するらしい。
いやいやそんな。食事中や食後の紅茶なんてみんな飲んでるし、紅茶で貧血になるならイギリス人はみんな貧血かっつーの。…と思っていた、この時は。貧血の原因が紅茶だなんて半信半疑だったのだ。
内科を受診するよう言われたので近所の医者にかかり、診察のついでに紅茶のことについても聞いてみた。「紅茶の成分が鉄分の吸収を阻害すると聞いたのですが、それって貧血の原因として考えられますか?」と。
先生いわく、「たしかにね、タンニンは鉄の吸収を阻害しますよ。でも、1杯や2杯くらい飲むくらいなら問題ないですよ」とのこと。
ほらみろ、問題な……ん?1杯や2杯くらいなら?
(この場合の1杯2杯とは一般的なティーカップのことであり、決して中ジョッキではないと思われる)
「1日中飲み続けるとかね、そういう非常識な量飲むんでなければ、別に大丈夫ですよ」先生の追撃。
先生、目の前にいる患者は1日中紅茶のタンブラーを手元に置いて、非常識な量をガバガバ飲んでたんです。私は「そうですか…」としか言えなかった。
鉄分の錠剤を処方してもらい、さすがにその後は紅茶の量も控えたので、ヘモグロビンの数値は数週間で正常に戻った。
階段を一気に登っても息切れしなくなったし、身体のだるさも軽くなった。歯磨き中に腕を口元まであげているのすらつらいということもなくなった。
それで貧血がよくなったということは、やはり原因は紅茶の飲み過ぎだったのだろう。
まさか飲食店のソフトドリンクメニューとしてウーロン茶の次くらいに馴染みの深いアイスティーが、鉄分の吸収を妨げているなんて思わなかった。紅茶好きはもちろん、コーヒーや緑茶、ウーロン茶にもタンニンは含まれているそうなので、私のように非常識な量を飲んでいる方はぜひ気をつけてほしい。
ウーロン茶、コーヒー、紅茶を除くとなると、下戸としては飲食店で何のドリンクを頼んだらよいのか分からなくなってしまいそうだが、先生も言っていた通り、1杯や2杯の常識的な量ならば何の問題もない。
(繰り返すが、この場合の1杯2杯とは一般的なティーカップのことであり、決して中ジョッキではない)
酒も紅茶もほどほどの量が一番なのだ。


